辛辣
いつもお読み頂きまして毎度ありがとうございます。
親である自分が言うのも何だが、俺の娘○は真面目だと思う。遊んで夜遅く帰る事も無いし、熱心に勉強もしている。こちらへ来てから予備校とピアノは休ませてしまっている。大学には行かないと言うが、胸の内はどうなんだろうか…?大学へ行けるだけの学力はあるはずだ。高校を卒業したら働きたいと言う娘…○のこれからを三人で話していると…
「パパは…大学入ったのに何で途中で辞めたの…?」
中退の本当の理由は娘に話していない。娘もサヤや俺の死んだ両親からも聞かされていないようだ。遊んでばっかりいたら単位取れなくて留年したから退学したと言った記憶がある。当時を知るよう子もいる。本当の事を話す時が来たようだ。当時の事情を詳しく娘に話した。やっぱり黙り込む娘…ずっと聞いていたよう子が…
「○ちゃん、誰も教えてくれなかったからショックだと思うけど、この話はそこで終わりじゃないのよ…まだ続きがあってさ…」
その後の事実を包み隠さず、全部よう子が話した。過去によう子と付き合っていた事実も含めてだ。娘の口から…
「何となくそんな気がしてた…ママがそういう感じで話してたから…」
娘のこれからを話していたが、話が違う方向へ転がり始めた。娘が抱く疑問には全て答えようと決めたが、それ以上に訊いてこようとしない娘によう子が…
「話が違う方へ行っちゃったけど、進学でも就職でもあたしは○ちゃんをサポートするよ。Y君も同じ考えだから心配要らない。迷ったり困ったりしたら、遠慮しないであたしたちに相談してよ」
「ありがとうよう子おばさん…」
「面談で進路を訊かれると思うけど、慌てて決める必要ないとあたしは思うよ」
「うん…」
何か踏ん切りがつかない娘…素性を知らない女が目の前にいて、その女が自分をサポートすると言ってきた。戸惑うのも無理ないか…
「就職するつもりなら無理にならない程度でバイト始めればいいし、進学するつもりなら勉強すればいい。○ちゃんのやりたい事をやればいいのよ(^^)この人(俺を指差して)もそうしてきたんだしさ、気兼ねする事なんてないよ」
真剣に聞く娘には本当に申し訳無いのだが、話の途中で手を洗いに何度か席を立っていた。R子の生々しい感触が残っていたからだ。石鹸で何度洗っても取れた気がしない。また手を洗いに席を立った。よう子が…
「トイレ?」
「手と顔…洗ってくる」
「お風呂は?」
「まだだけど…沸いてるよ」
「○ちゃん、お風呂入っちゃえば?」
よう子が促し、娘が風呂に入った。
「ねぇ…どうかした…?」
「どうもしねぇよ…」
「あぁっ!浮気してきたでしょ?物分かりの悪い女と…(^^;)」
したと言えばした。してないと言えばしてない。どちらとも取れる。
「物分かりの悪い女はダメって言ったじゃん(^^;)物分かりの悪さに呆れてるんでしょ?」
ボディブローをブチ込んだとは絶対に言えない。ましてやフィストファックをやったなどと天地がひっくり返えろうとも言えない。黙り込んでしまう…
「罰として今夜は無し(^^;)正座でもして少し反省しなさい(^^)」
正座が出来ない俺には最も厳しい罰のひとつだ…
娘と入れ替わりでよう子が風呂へ入った。娘が…
「パパ…誰か亡くなってるの…?よう子おばさん毎日お線香あげてる…」
「よう子の子供だよ…よう子が前のご主人と結婚してた時に出来た子供さん…お腹の中で亡くなったんだそうだ…」
「死産とか流産…?」
「お腹の中で順調に育ってたらしいからそういう事になるわな…」
「悲しかっただろうね…そういう感じを全然見せないけど…」
「よう子は…そういう部分も含めてこれからも○に色々と話すだろうから嫌じゃなかったら聞いてやってくれる…?」
「いいよ…パパ、進路はいつまでに決めればいい…?4月にクラス分けがあって…進学クラスしかないけど…」
「慌てんなって言われても時間が無いか…面談までに決めればいい」
「そうする…」
娘はスマホ片手に部屋へ入った。よう子と入れ替わりで風呂に入る。両手が赤くなるほどゴシゴシと洗うが、あの感触がどうしても抜けない。罪悪感の塊が頭の中から消えずにいた。必然的に長風呂になってしまう。よう子の声が聞こえた…
「Y君…Y君…どうかした…?」
咄嗟にこう答えてしまった。
「正座して反省してる…」
「また膝に血が溜まっちゃうよ…早く出て…」
ボーッと風呂から出ると…
「娘に心配かけないの(^^)パパ何か変って言ってたよ」
「○は…?」
「ヘッドホンして部屋でピアノ弾いてるよ。夜でも弾けるから電子ピアノは良いよね(^^)」
「本当は時間とか場所とか気にせず、大きいのを弾かせてやりたいんだが…」
「家を建てられたら弾かせてあげればいいじゃん。本当に進学しないならピアノも買ってあげられるかもね(^^)」
「そうだな…」
よう子と寝室へ行き、ある事を話した。
「今って公立高校は授業料が無料なんだよな…私立でも補助金が出てる筈なんだ。それと…こども手当って何才までだっけ…?補助金とかも全部サヤの懐に入ってる…」
「こども手当は15才以下だよ。補助の事は向こうが何か言ってくるまで黙ってよ…あと2年ぐらいなんだしさ…補助金が無くても、ちゃんと学校通わせてあげられてんだから。親権はサヤさんが持ってる訳だし、ここでお金の事を持ち出したら、また向こうに関わる事になるよ…」
「なら黙ってるよ…」
何か釈然としないが、今日の事もあったので、正座して反省する事にした。正座しようとするが、右膝がちゃんと曲がらないから変な格好になってしまう。しかもかなり痛い。
「痛っ!」
「何してんのよ?」
「正座…痛っ!」
「やめなよ!」
「反省しないと…」
「正座しなくても反省は出来るじゃない」
以前にサヤの親父に対してよう子が言った言葉を思い出された。殴った事実は消えないと…確かにそうだと思う。この後味の悪さは一生消えない。お手軽な亡霊女に手を出した結果だ。くだらねぇ三文芝居に騙され、こっちが黄泉送りされるところだった。やり残している事はまだまだある。この世に未練もある。利己主義だが、まだ死ぬ訳にはいかない。
「反省するなら頭でも丸めてみれば(^^;)?」
「坊主頭か…シャンプー節約にもなるから明日やってくるよ…」
頭を丸める事を決めた。
「もう寝よ…(^^;)」
「うん…」
ベッドに潜り込むと、隣から伝わるよう子の体温と仄かに香る石鹸の匂い…枕元の暗めの灯りが照らすよう子のスッピン顔…今夜は無しと言われていて良かった。どんなに性欲を掻き立てられても、こんな気持ちのまま抱いても悲しいだけだ。仮に何かが伝わったとしても本当に伝えたい事じゃないと思う。
よう子がゴソゴソと何かを持ち出した。何かと思えばペンとメモ帳だ。何かサラサラと書いたメモを見せてきた。そこにはこんな文字が書かれている。
『マジで何かあった?』
筆談か…苦し紛れからこんな返答を書いた。
『今日は色々と勉強させて貰った』
『身になった?』
『なった…寝るわ…』
『おやすみ…』
メガネを外し、枕元のライトを消し、布団をかぶり寝ようとしたが、やっぱり寝られない。ふたりで寝るには些か狭いセミダブルのベッド…左を向けばよう子がいて右を向けば壁がある。昔からうつ伏せだと寝られない。仰向けになり見えない天井を眺める…
今日を振り返ると、本当に最悪で最低だった。R子を殴った罪悪感と自分に対する嫌悪感に苛まれながら過ぎた1日であった。よう子がいてくれたから何とかなったが、娘からの進路の相談にもキチンと答えてやれなかった。その上、人を殴るとこんな気持ちになるのかよ…吐き気すら感じる。マジで最悪だよ…
隣からよう子の寝息が聞こえてきた。気疲れしたんだろう。ベッドを少し広くしてゆっくりと休ませてやりたい。ゴソゴソと起き出し、リビングで色々と先々の考え事…全く考えがまとまらない。不安ばかりが先に立つ。気持ちを落ち着かせる為に精神安定剤を久しぶりに飲んだ。娘の部屋から物音がする。まだ起きているようだ。ドア越しに声を掛けた。
「○…まだ起きてるか…?」
「うん…何…?」
娘が狭い部屋から出て来た。
「進路の事…ちゃんと聞いてやれなくてごめんな…」
「よう子おばさんは…?」
「もう寝てる…遠くまで行ったから疲れたんだろ…」
「パパ…よう子おばさんの前だと訊けない事とか話せない事あって…」
「そっか…お茶でも飲むか…?」
「うん…」
お茶を飲みながら…
「ちょっと前に進学しないってママにメールした…」
「就職に決めたのか…?」
「でも…さっきママから電話あって…」
「何だって…?何がなんでも進学しろって…?」
「ハッキリ言ってもいい…?」
「いいよ…」
「今のパパじゃ○を大学に通わせるのは経済的に無理だって…」
「ママの言う通りだ…ここから通える地元の国立とかなら何とかなると思うが、私立となるとかなり厳しい…独り暮らしをされると尚更だ…パパの今の収入だと仕送りすら難しいと思う…でもな、頼りないパパだけど、心強い味方のよう子がいる。ふたりで働けば何とかなるから。進学に必要なお金の事は心配するな」
「○は…大学にも専門学校にも行かない。行く意味がよく分かんない…大卒なのに就活に失敗してプラプラなんてヤダし、Y理お姉ちゃんも就活厳しかったって言ってたし、○は高卒でも良いからで早めに就活始めようと思ってて…」
「大卒と高卒じゃ初任給も違うし、就職してからも色んな面で大卒者が有利だし、全てにおいて優遇される。それでも良いのか?」
「構わない。それに…やりたい事は大学へ行く事じゃない…」
俺の本心を言えば娘には大学へ行って欲しい。金の事で大学を諦めようとしているなら可哀想だし、とても心苦しい。周りの友達は進学するだろう。社会人デビューするのは大学卒業してからでも遅くない。
「やりたい事は大学卒業してからでも遅くないとは思わないのか?」
「パパね…よう子おばさんが言ってた。学歴と学力は違うって…目的も無いのに大学行って、つまんない学歴つけても意味ないと思う。それで就職出来なかったたらチョー最悪じゃん…」
つまんない学歴かぁ…
「後で後悔しないか?」
「しないよ。それに大学に行きたくなったら働きながらでも夜間へ行けばいいし…」
「二部か…働きながらだと大変だぞ」
「パパはバイトしながら予備校に行ったってよう子おばさんがさっき言ったよ」
「それはそうだが…」
娘の決意は固く揺るがない。決意と言うより反骨精神に近い。誰に似たんだか…
「合コンばっかやってお酒飲んで馬鹿騒ぎしてるような人になりたくない」
いやはや…痛烈で強烈だわ…
「そう思うなら高校卒業したら頑張って働けばいい。ママの言う事は気にすんな。パパから話しとくから」
「うん」
娘は部屋へ戻った。俺の娘がこんなに辛辣だったとは…今日初めて知った。やりたい事は音楽なのだろうか…?楽器屋で働きたいと言っていたが、特定少数を相手にする限られた職種だから狭き門になる。必ずしも求人があるとも限らない。有名楽器メーカーなら大卒が条件になるだろう。大学に入るより難しいかもしれない。高卒となると…地元の楽器店ぐらいしかない。果たして求人があるだろうか…?音楽の道に進みたいなら音大へ行くのも手だが、以前にサヤが娘に音大は無理だと言っていた。国立の教育学部の音楽科も難しいなら短大で音楽を専攻するとかもある。地元の短大なら私立だが2年だし、何とか通わせられる。恐らく娘はお金の心配をしているんだ。ならば、リフォームを暫く先延ばしするしか方法がない。寝室へ戻ったら…よう子が起きていて驚く。
「あたしが寝た隙に娘とヒソヒソ話なんて…良い度胸してるねぇ(^^)」
「ビックリさせんなよ…」
「コソコソと何を話してたのよ(^^)?」
「進学はしないそうだ。つまんねぇ学歴は要らんとさ…」
「どっかの誰かさんにそっくり…(^^)」
やっぱり俺に似てんのか… 終
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親である自分が言うのも何だが、俺の娘○は真面目だと思う。遊んで夜遅く帰る事も無いし、熱心に勉強もしている。こちらへ来てから予備校とピアノは休ませてしまっている。大学には行かないと言うが、胸の内はどうなんだろうか…?大学へ行けるだけの学力はあるはずだ。高校を卒業したら働きたいと言う娘…○のこれからを三人で話していると…
「パパは…大学入ったのに何で途中で辞めたの…?」
中退の本当の理由は娘に話していない。娘もサヤや俺の死んだ両親からも聞かされていないようだ。遊んでばっかりいたら単位取れなくて留年したから退学したと言った記憶がある。当時を知るよう子もいる。本当の事を話す時が来たようだ。当時の事情を詳しく娘に話した。やっぱり黙り込む娘…ずっと聞いていたよう子が…
「○ちゃん、誰も教えてくれなかったからショックだと思うけど、この話はそこで終わりじゃないのよ…まだ続きがあってさ…」
その後の事実を包み隠さず、全部よう子が話した。過去によう子と付き合っていた事実も含めてだ。娘の口から…
「何となくそんな気がしてた…ママがそういう感じで話してたから…」
娘のこれからを話していたが、話が違う方向へ転がり始めた。娘が抱く疑問には全て答えようと決めたが、それ以上に訊いてこようとしない娘によう子が…
「話が違う方へ行っちゃったけど、進学でも就職でもあたしは○ちゃんをサポートするよ。Y君も同じ考えだから心配要らない。迷ったり困ったりしたら、遠慮しないであたしたちに相談してよ」
「ありがとうよう子おばさん…」
「面談で進路を訊かれると思うけど、慌てて決める必要ないとあたしは思うよ」
「うん…」
何か踏ん切りがつかない娘…素性を知らない女が目の前にいて、その女が自分をサポートすると言ってきた。戸惑うのも無理ないか…
「就職するつもりなら無理にならない程度でバイト始めればいいし、進学するつもりなら勉強すればいい。○ちゃんのやりたい事をやればいいのよ(^^)この人(俺を指差して)もそうしてきたんだしさ、気兼ねする事なんてないよ」
真剣に聞く娘には本当に申し訳無いのだが、話の途中で手を洗いに何度か席を立っていた。R子の生々しい感触が残っていたからだ。石鹸で何度洗っても取れた気がしない。また手を洗いに席を立った。よう子が…
「トイレ?」
「手と顔…洗ってくる」
「お風呂は?」
「まだだけど…沸いてるよ」
「○ちゃん、お風呂入っちゃえば?」
よう子が促し、娘が風呂に入った。
「ねぇ…どうかした…?」
「どうもしねぇよ…」
「あぁっ!浮気してきたでしょ?物分かりの悪い女と…(^^;)」
したと言えばした。してないと言えばしてない。どちらとも取れる。
「物分かりの悪い女はダメって言ったじゃん(^^;)物分かりの悪さに呆れてるんでしょ?」
ボディブローをブチ込んだとは絶対に言えない。ましてやフィストファックをやったなどと天地がひっくり返えろうとも言えない。黙り込んでしまう…
「罰として今夜は無し(^^;)正座でもして少し反省しなさい(^^)」
正座が出来ない俺には最も厳しい罰のひとつだ…
娘と入れ替わりでよう子が風呂へ入った。娘が…
「パパ…誰か亡くなってるの…?よう子おばさん毎日お線香あげてる…」
「よう子の子供だよ…よう子が前のご主人と結婚してた時に出来た子供さん…お腹の中で亡くなったんだそうだ…」
「死産とか流産…?」
「お腹の中で順調に育ってたらしいからそういう事になるわな…」
「悲しかっただろうね…そういう感じを全然見せないけど…」
「よう子は…そういう部分も含めてこれからも○に色々と話すだろうから嫌じゃなかったら聞いてやってくれる…?」
「いいよ…パパ、進路はいつまでに決めればいい…?4月にクラス分けがあって…進学クラスしかないけど…」
「慌てんなって言われても時間が無いか…面談までに決めればいい」
「そうする…」
娘はスマホ片手に部屋へ入った。よう子と入れ替わりで風呂に入る。両手が赤くなるほどゴシゴシと洗うが、あの感触がどうしても抜けない。罪悪感の塊が頭の中から消えずにいた。必然的に長風呂になってしまう。よう子の声が聞こえた…
「Y君…Y君…どうかした…?」
咄嗟にこう答えてしまった。
「正座して反省してる…」
「また膝に血が溜まっちゃうよ…早く出て…」
ボーッと風呂から出ると…
「娘に心配かけないの(^^)パパ何か変って言ってたよ」
「○は…?」
「ヘッドホンして部屋でピアノ弾いてるよ。夜でも弾けるから電子ピアノは良いよね(^^)」
「本当は時間とか場所とか気にせず、大きいのを弾かせてやりたいんだが…」
「家を建てられたら弾かせてあげればいいじゃん。本当に進学しないならピアノも買ってあげられるかもね(^^)」
「そうだな…」
よう子と寝室へ行き、ある事を話した。
「今って公立高校は授業料が無料なんだよな…私立でも補助金が出てる筈なんだ。それと…こども手当って何才までだっけ…?補助金とかも全部サヤの懐に入ってる…」
「こども手当は15才以下だよ。補助の事は向こうが何か言ってくるまで黙ってよ…あと2年ぐらいなんだしさ…補助金が無くても、ちゃんと学校通わせてあげられてんだから。親権はサヤさんが持ってる訳だし、ここでお金の事を持ち出したら、また向こうに関わる事になるよ…」
「なら黙ってるよ…」
何か釈然としないが、今日の事もあったので、正座して反省する事にした。正座しようとするが、右膝がちゃんと曲がらないから変な格好になってしまう。しかもかなり痛い。
「痛っ!」
「何してんのよ?」
「正座…痛っ!」
「やめなよ!」
「反省しないと…」
「正座しなくても反省は出来るじゃない」
以前にサヤの親父に対してよう子が言った言葉を思い出された。殴った事実は消えないと…確かにそうだと思う。この後味の悪さは一生消えない。お手軽な亡霊女に手を出した結果だ。くだらねぇ三文芝居に騙され、こっちが黄泉送りされるところだった。やり残している事はまだまだある。この世に未練もある。利己主義だが、まだ死ぬ訳にはいかない。
「反省するなら頭でも丸めてみれば(^^;)?」
「坊主頭か…シャンプー節約にもなるから明日やってくるよ…」
頭を丸める事を決めた。
「もう寝よ…(^^;)」
「うん…」
ベッドに潜り込むと、隣から伝わるよう子の体温と仄かに香る石鹸の匂い…枕元の暗めの灯りが照らすよう子のスッピン顔…今夜は無しと言われていて良かった。どんなに性欲を掻き立てられても、こんな気持ちのまま抱いても悲しいだけだ。仮に何かが伝わったとしても本当に伝えたい事じゃないと思う。
よう子がゴソゴソと何かを持ち出した。何かと思えばペンとメモ帳だ。何かサラサラと書いたメモを見せてきた。そこにはこんな文字が書かれている。
『マジで何かあった?』
筆談か…苦し紛れからこんな返答を書いた。
『今日は色々と勉強させて貰った』
『身になった?』
『なった…寝るわ…』
『おやすみ…』
メガネを外し、枕元のライトを消し、布団をかぶり寝ようとしたが、やっぱり寝られない。ふたりで寝るには些か狭いセミダブルのベッド…左を向けばよう子がいて右を向けば壁がある。昔からうつ伏せだと寝られない。仰向けになり見えない天井を眺める…
今日を振り返ると、本当に最悪で最低だった。R子を殴った罪悪感と自分に対する嫌悪感に苛まれながら過ぎた1日であった。よう子がいてくれたから何とかなったが、娘からの進路の相談にもキチンと答えてやれなかった。その上、人を殴るとこんな気持ちになるのかよ…吐き気すら感じる。マジで最悪だよ…
隣からよう子の寝息が聞こえてきた。気疲れしたんだろう。ベッドを少し広くしてゆっくりと休ませてやりたい。ゴソゴソと起き出し、リビングで色々と先々の考え事…全く考えがまとまらない。不安ばかりが先に立つ。気持ちを落ち着かせる為に精神安定剤を久しぶりに飲んだ。娘の部屋から物音がする。まだ起きているようだ。ドア越しに声を掛けた。
「○…まだ起きてるか…?」
「うん…何…?」
娘が狭い部屋から出て来た。
「進路の事…ちゃんと聞いてやれなくてごめんな…」
「よう子おばさんは…?」
「もう寝てる…遠くまで行ったから疲れたんだろ…」
「パパ…よう子おばさんの前だと訊けない事とか話せない事あって…」
「そっか…お茶でも飲むか…?」
「うん…」
お茶を飲みながら…
「ちょっと前に進学しないってママにメールした…」
「就職に決めたのか…?」
「でも…さっきママから電話あって…」
「何だって…?何がなんでも進学しろって…?」
「ハッキリ言ってもいい…?」
「いいよ…」
「今のパパじゃ○を大学に通わせるのは経済的に無理だって…」
「ママの言う通りだ…ここから通える地元の国立とかなら何とかなると思うが、私立となるとかなり厳しい…独り暮らしをされると尚更だ…パパの今の収入だと仕送りすら難しいと思う…でもな、頼りないパパだけど、心強い味方のよう子がいる。ふたりで働けば何とかなるから。進学に必要なお金の事は心配するな」
「○は…大学にも専門学校にも行かない。行く意味がよく分かんない…大卒なのに就活に失敗してプラプラなんてヤダし、Y理お姉ちゃんも就活厳しかったって言ってたし、○は高卒でも良いからで早めに就活始めようと思ってて…」
「大卒と高卒じゃ初任給も違うし、就職してからも色んな面で大卒者が有利だし、全てにおいて優遇される。それでも良いのか?」
「構わない。それに…やりたい事は大学へ行く事じゃない…」
俺の本心を言えば娘には大学へ行って欲しい。金の事で大学を諦めようとしているなら可哀想だし、とても心苦しい。周りの友達は進学するだろう。社会人デビューするのは大学卒業してからでも遅くない。
「やりたい事は大学卒業してからでも遅くないとは思わないのか?」
「パパね…よう子おばさんが言ってた。学歴と学力は違うって…目的も無いのに大学行って、つまんない学歴つけても意味ないと思う。それで就職出来なかったたらチョー最悪じゃん…」
つまんない学歴かぁ…
「後で後悔しないか?」
「しないよ。それに大学に行きたくなったら働きながらでも夜間へ行けばいいし…」
「二部か…働きながらだと大変だぞ」
「パパはバイトしながら予備校に行ったってよう子おばさんがさっき言ったよ」
「それはそうだが…」
娘の決意は固く揺るがない。決意と言うより反骨精神に近い。誰に似たんだか…
「合コンばっかやってお酒飲んで馬鹿騒ぎしてるような人になりたくない」
いやはや…痛烈で強烈だわ…
「そう思うなら高校卒業したら頑張って働けばいい。ママの言う事は気にすんな。パパから話しとくから」
「うん」
娘は部屋へ戻った。俺の娘がこんなに辛辣だったとは…今日初めて知った。やりたい事は音楽なのだろうか…?楽器屋で働きたいと言っていたが、特定少数を相手にする限られた職種だから狭き門になる。必ずしも求人があるとも限らない。有名楽器メーカーなら大卒が条件になるだろう。大学に入るより難しいかもしれない。高卒となると…地元の楽器店ぐらいしかない。果たして求人があるだろうか…?音楽の道に進みたいなら音大へ行くのも手だが、以前にサヤが娘に音大は無理だと言っていた。国立の教育学部の音楽科も難しいなら短大で音楽を専攻するとかもある。地元の短大なら私立だが2年だし、何とか通わせられる。恐らく娘はお金の心配をしているんだ。ならば、リフォームを暫く先延ばしするしか方法がない。寝室へ戻ったら…よう子が起きていて驚く。
「あたしが寝た隙に娘とヒソヒソ話なんて…良い度胸してるねぇ(^^)」
「ビックリさせんなよ…」
「コソコソと何を話してたのよ(^^)?」
「進学はしないそうだ。つまんねぇ学歴は要らんとさ…」
「どっかの誰かさんにそっくり…(^^)」
やっぱり俺に似てんのか… 終
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